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ヒゲ。

旦那のケンはヒゲが濃い。






夜寝る前にも丁寧にヒゲを剃る。





しかし、朝になると口の周りが青くなっており、






まるで泥棒ヒゲのようだ!





指の毛も濃く、ゴリラのように手に毛が生えている。





そして、足もムシャムシャと毛が生えていて




ケツにまで毛が生えている。





私はそれを見てよくからかう。




「あんた!頭の毛は薄くなってきてんのに



 顔は泥棒みたいやし、身体はゴリラやな~(笑)




 身体の毛、抜いて頭に糊でくっつけたるわー」と…





大笑いしながら、からかう。




そう言えば、性悪の姉も女のくせに毛が濃い。




学生の頃に太ももの裏にも黒い毛が生えていて




指を射し大笑いした記憶がある。





私は、腕や足のムダ毛が少ない方である。




なので手や足のムダ毛を苦労して処理していた




性悪の姉をいつも不憫に思いながらも




心でいつも





笑っていた!






体毛が薄くて良かったわ・・・と思いながら…




ある夜の事…




コタツでうたた寝していたら…



洗面所でケンがヒゲを剃っている音で目が覚めた。



そして、洗面所から



「ゆうこー!お風呂入りやー!」




とケンの声が聞こえ、その声で




んー…と






眠い目をこすり…





コタツで寝ていた身体をゆっくりと起こした。





寒い冬になると、コタツの中に身体をスッポリ入れ




横にごろんと寝ころぶと…




3分も経たないうちに夢の中へと入っていく…





そして、起こされるまで起きられない。








今日も…





またコタツで深い眠りに落ちようとしていた…





薄れていく意識の中に、愛犬のあんこが胸の上に乗り




私の口元をペロペロなめていた…







「ゆうこー!お風呂入りやー!」






ケンに起こされ、今日も眠い目をこすり





コタツの中から起き上がる…






フラフラと揺れる頭を手で抑え




洗面所へと向かう。









手にクレンジングを取り、





手のひらでゆっくりとクレンジングをのばした。






そして顔をマッサージするようにメイクを落としていく…





まだ寝ぼけていた…





はっきりと焦点の合わない目をバシバシ瞬きしながら





洗面所の鏡を見た…














ヒゲ?…











クレンジングの油が目に入り、少し視界がにじんでいる…






まさか…






一瞬、アゴに黒いものが見えた…





それがヒゲに見えた…





ははは…





いくらなんでも、女の私にヒゲなんて…





クレンジングを丁寧に水で落とした…





目に入ったクレンジングの油も丁寧に




何度も何度も落とした…





いつもより長く、丁寧に落とした…











ヒゲが生えるわけないやん…












そして水にぬれた顔をタオルで拭き取り





もう一度ゆっくりと








鏡を見た…














・・・。








なんでヒゲが生えてるねん!








寝てる間に











オッサンになってしもたんか!







小さいころに姉をバカにしていたバチ




今になってやってきたのか!




それとも、ケンの泥棒ヒゲとゴリラっぷりを





バカにしていたバチなのか!





ビックリして黒くなったアゴを触った…








ん?






ヒゲちゃうな…







恐る…恐る…






顔を鏡に近づけた…










・・・。









なんで黒いねん!









よく見ると、それはヒゲではなく









うっ血して出来た青タンのようだった。










きっとコタツで寝ている間に、アゴが下になり





体重でアゴがうっ血したのであろう。






次の日には、治っているとおもったが






朝起きて鏡を見ると







さらに黒ずみ








どうみても







ヒゲにしか見えない!





こんなヒゲ面で職場へ行ったら





私がオッサンだと思われてしまうやん!














慌てて、いつもよりも化粧を濃くし






アゴに視線の行かぬよう






目にアイシャドーもたっぷり付け





チークもおてもやんのように赤く塗りたくった。





それでも黒くなったアゴは化粧で消えず




遠くから見てもアゴヒゲが生えているように見える。






まるで、ゲイバーのヒゲが生えてるオッサンみたいやん!




もう化粧を直す時間もない。




諦めてオッサン面で職場へ向かった。






職場へ行くと女の人から





「いつものメイクと違うね~」と言われ…






「はい…





 ヒゲが生えてしもたんですわ






と、ついつい本当の事を口ばしってしまった。





いやいや…






ヒゲではなく、知らん間にアゴが黒くなってって







ヒゲみたいに見えるんですわ。と言いなおした。







きっと明日は鼻の下も黒くなり




口の周りがすべて黒くなり







泥棒のようになるんですわ…







悲しそうに自分に起こった悲劇





落胆していたら…






大笑いされてしまった・・・。







結局、次の朝には少し赤くなり





黒い色が薄れてきていた。





次の日職場で、泥棒にならず残念がられ




黒いアゴヒゲのような青タンは




数日で消えた。






そして、その日以来




コタツで眠ってしまった後、





鏡を見る時に、少しばかりの勇気が必要になった私であった。







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成人式。

毎年成人式のニュースを見てると、もうずっと昔に終えた自分の成人式の姿を重ねてしまう。

綺麗な晴れ着を着て、綺麗に頭をセットした今年の成人の姿を見てついつい自分の姿と



比べてしまう…



そうあれは、もう20年以上も前の事…




19歳の私は明日成人式を迎えようとしている。

2月生まれなので1月15日は、まだ19歳。


前日、前々日と会社でセールを行っていたため身体は疲れきっていた。



普段事務職なのでデスクワークが多い中、店の洋品部門のセールに借り出され
慣れないセール会場で慣れない接客仕事。


いつも椅子に座っている足は、2日間立ちっぱなしでむくれて悲鳴を上げていた。



仕事を終え、その足で美容院へ向かった。




美容院は営業時間を終えても明日成人を迎える人で賑わっていた。




住んでいた町で一番人気の美容院へ行ったために、頭のセットは前日に行う。


人数が多いため、朝だけで準備ができないのだ。



着付けのみ当日の早朝からしてもらうシステムになっていた。




住んでる町の人口が多い上に人気の美容院とあって仕事を終えて入る人も多く

予約時間に入っても待たされる状態だった。



先に美容院へ入った人の綺麗に仕上げられていくヘアースタイルを見ながら
自分のヘアースタイルを想像していた。



髪の毛をクルクルカールしてとても豪華なヘアースタイルの人や
小さくまとめて可愛いスタイルの人もいた。




一生に一度の成人式とあって、初めて迎えるこの日に心を弾ませていた。




どんな髪型にするのかは、もう決まっていた。

まだ19歳のおぼこい娘であった私はオカンが望む髪型を素直に聞いたのだ。


オカンは当時テレビで流行っていた時代劇に出てくる女の子のような頭が気に入っていたようだ。

「時代劇に出るような日本髪にして貰っておいで」

と言われていた。



当時まだ素直な私はオカンの望み通りに美容院の方にそれを伝えた。




「あの~。

 テレビの時代劇とかでよくみる髪型にしてください。

 日本髪?っていうのをお願いします」



丁度私を受け持ってくれたのが、年配の美容院の店長さんだった。



日本髪なんてちょっと変わったスタイルを注文された店長さんは

がぜん…





張り切った!




周りをみると当時主流だった小さくまとめた感じのヘアースタイルばかりの中、


私の横のワゴンには






大量の綿が用意された!





髪の毛を膨らませるために綿を用意されたのだ。




「新日本髪に仕上げるしな!任しときー!」





新?





新って何やろ?



新?




なぜか「新」と聞いて、新しいんやな!


新しいからきっと素晴らしいんやな!


と思い、ますます心が弾んだ。



セールでクタクタだった私の疲れは、その「新」と言う言葉一つで
吹っ飛んだ。




見るからに張り切っている年配の店長さんは

私の髪の毛を少しづつ丁寧に逆毛にし、


綿を使って膨らませていく…




綿を使い周りを髪の毛で包み膨らませていく…



あきらかに周りの人よりも時間をかけ丁寧に仕上げられていく…



なんだか特別な髪形を作って貰っているようで

ますます心は躍った。



期待に胸を膨らませ、どんな仕上がりになるのか


楽しみにしていた。




綿…






綿…




そしてまた綿…






横に置いてあった大量の綿は





私の髪の中へどんどん







吸収されていった…






大きく膨らむ







私の








頭…



そして…



一風…










変わったヘアースタイルが仕上がった。









仕上がった頭をみて…











泣きそうになった





元々





顔がデカイ上に







仕上がった







ドデカイ頭







期待していた時代劇で出てくる可愛い女の子の髪型とは






あきらかに…







違った!







泣きそうな私の横で





年配の店長さんは自分が仕上げた大作に






ご満悦の笑顔だった



大作・・




大作…






そう…






確かに大作であった…








とても大きな頭に仕上がった!





泣きそうになりながらも何も言えず





美容院を後にした…






家に帰り頭を見せた…






オカンは言葉を






失った…




そして…





意地悪な姉は…








大笑いし





私とは別の意味で






転げまわりながら







泣いていた。






大きく膨れた頭を崩さず寝るのは






至難の業だった。






一生に一度の晴れ舞台…





夢にまで見た晴れ着姿…




色んな思いと






大きな頭で








その夜は一睡もできなかった…





翌日、振袖を着つけてもらい







出来あがった姿は…






まるで…








関取だった。






頭も新日本髪とやら一風変わった




古典的な頭だったために





まるで






大きな






ちょんまげを結った関取のようだったのだ。





オカンは美容院まで迎えに来てくれて




その足で写真館まで連れていかれた。





娘の一生に一度の晴れ姿とあって、写真も額縁に入った大きな写真を発注された。





前日寝られず顔もむくみ、ちょんまげ姿の関取の娘の




晴れ着姿…






姉の時は額縁の写真など注文していない…






きっと自分の日本髪の一言が招いた





娘の災難





申し訳なく思ったのだろう…





全く可愛くもないのに




ひきつった顔で




「可愛いやん」を連発している姿を今も






忘れない…



忘れる事のできない




成人式…






数日後、出来あがった額縁に入った大きな写真は





家のどこにも





飾られなかった…








仕方なく、写真を自分の部屋に飾った。





そしてその関取姿は数年間、私の部屋で飾られ


私にだけ見られたのだった。




部屋の高い位置に飾られた写真は



まるで相撲取りがまわしをつけて立っている姿のようであった。








後悔しつつも折角オカンが大金をかけて注文してくれた
額縁の立派な写真なので部屋で飾っておいた。




ある日、姉の旦那が家に遊びにきた時に




姉と一緒に私の部屋に入ってきた。





その時、姉の旦那は飾られた私の写真を見て…






「北の海!」と指さし笑った。






また・・・








姉は笑い転げた







昔の名横綱の北の海…





その後、数年飾られた額縁はゴミ箱へと行ったのだった。








また来年も成人の日はやってくる…






毎年思い出す自分の成人の日…





いつか忘れる日がくるのだろうか…



運動会。

食欲の秋ですよね~。



最近涼しくなって、暑い夏でも食欲は全く衰えなかったのに



秋になってさらにその食欲は増えてしまった…




今日も食べすぎて若干腹を壊している…





腹を壊すまで食べなければいいのにと思うのだが…





最近、職場で太る一方だとなげいていたら、





課長が食後に走っているという。





痩せるには運動が一番だと進められた。





しかしながら、私は太ってから走れない。




小走りに走るだけで身体中の肉が左右上下に揺れ





肉が邪魔で走れないのだ。






気持ちだけ前へ進もうとするのだが、





特に沢山ついてしまった腹周りの肉が邪魔で






どうしても走れないのだ。






腹の肉だけがその場にとどまり、足だけが前に行くような感覚に襲われるのだ。





この感覚…





ずーと昔…





はるか遠い記憶の中に経験した事があるように思える…






記憶を辿ってみると…













「ふぅ~。







お腹がいっぱい!」







そこには小さい私がいた。






畳の部屋の上でパンパンに膨れたお腹を出して寝ころんでいる。





「水が飲みたいのに、お腹がいっぱいで飲めへん…」






などと涙ぐんでいる。






水が飲めない程、ご飯を食べるなんて





今から考えても、なんと…






頭の痛い子であったんだろう…






この日のご飯は大好きなカレーライスであった。






幼いころの私は、とても偏食であった。






食べられるものが少なかったのだ。






なので、数少ない好物が食卓に並ぶとどうしてもお腹がはち切れんばかりに





口の中へ入れずにはいられなかった。






普段、食べられるモノが少ないためお腹はいつも満たされていなかったのだ。






お皿にてんこ盛りに盛られたご飯の上にカレーを並々と注いでもらい






ペロリと平らげる。






一皿を平らげるだけでお腹はパンパンに膨れるのだが






どうしてももう1皿食べてしまって






カレーライスの日は、ご飯を食べた後の水さえも飲めないくらい





お腹がはちきれそうになっていた。






飲みたいのに飲むことができず、動くこともできず





泣きべそをかいている私にいつもオカンが投げかけていた言葉。







「何事も腹八分目や!」







何度も何度も苦しい思いをしているにも関わらず






幼い私はそれを実行できずにいた。






どんな時も好物が出てくれば腹がはち切れんばかりに食べていたのだ。






年月が過ぎある秋の事…






秋と言えば運動会。






私は、頭の良い姉とは違い、何ひとつとりえのない子供であった。





頭の悪い私はいつもいつも親を落胆させ、



何ひとつ喜ばせる事のできない子供であった。






でもたったひとつだけ親が喜ぶ事があったのだ。





それは、運動会。






小さいころから駆けっこだけは早かったのだ。





保育園の頃からいつも一番で、運動会だけは唯一私が自慢できる日であった。





ひとつ上の姉は頭がよい上に、駆けっこも早かった。





小学校の6年生の頃、運動会で一番早かった子供が学校の代表選手となり




市の小学校が一堂に集まる大会で100メートルを走る。






勿論足の早い姉はその代表選手の座を軽く射止め、小学校の代表選手となった。






両親はそれはそれは喜び、入る事の出来ない競技場まで仕事を休んで応援に行った。





入り口の柵の隙間から姉の走る姿を応援していたのだ。





家に帰っても姉がどれだけ素晴らしい走りをしたのかを





それはそれは嬉しそうに話す両親。





姉は頭も良かった。





学期末ごとに渡される姉の通信簿を見た時の嬉しそうな表情と同じように


競技場での出来事を話す両親。






私は、一度もそんな両親の顔を見た事がなかった。






私に対して、そんなに誇らしげな嬉しそうな表情を向けられた事がなかったのだ。





見るのは怒った顔か、驚いた顔。






ボンドでスリッパを床にくっつけたり




水のはった田んぼに頭から突っ込みドロドロになったり





妹のスカートのポケットにモグラを入れて持って帰ったり




石の滑り台でパンツを毎日破いてくるような子に向けられるのは




いつも落胆した表情だけであった。






でも私も足だけは、自信があった。




いつもいつも山や田んぼを駆けていた自慢の足は鍛えられ早かったのだ。





来年は、その両親の誇らしげな嬉しそうな顔は私自身に向けられるものだと確信していた。






毎年、小学校のリレーには代表に選ばれ、町内の運動会の駆けっこの代表にも




私たち姉妹は揃って選ばれていた。




両親は、運動会の時期になると、姉妹揃って足が早いと




近所のおっちゃんやおばちゃんたちから




ほめられる言葉に嬉しそうに顔をほころばしていた。





小学校6年の秋がきた。




私はこの時を待ち望んでいた。




運動会の練習の駆けっこでも断トツで2位以下を引き離し



ぶっちぎりでトップを走っていた。





自身に満ちていた。






誰も私の足に叶う人はいないのだと自身に満ちていた。





いつも教室では目立たない女の子が、この時は違っていたのだ。






友達からもちやほやされ、本番の運動会もゆうこちゃんが一番やな~




などと言われ・・・





自身は確固たるものとなっていった。





そして運動会の当日がやってきた。



私はオカンに



「お弁当は、ゆうこの大好物ばっかり入れてやー

 海苔巻いて、たらこのふりかけのおにぎりにしてやー


 ゆうこ絶対1等賞とるしなー」


と元気に家を出た。




後にも、先にもこの日ほど自信み満ち足りた日はなかった。





100メートル走は午後からだった。





午後一番の競技である。




お弁当を開けると大好物ばっかりが入っていた。



おにぎりもたらこのふりかけで、ちゃんと海苔が巻かれてあった。





しかも、この日の弁当は大きかった。




工事現場のおっちゃんたちが食べているような




でっかい、でっかい弁当であった。




オカンは、好物は沢山食べる私のために



特別に大きなお弁当箱を用意してくれていたのだ。





いつもは、なんのとりえもない娘の晴れ舞台のために




大きな大きなお弁当箱を用意していてくれたのだ。





私は嬉しくて食べた。




いっぱい食べた。




残す事なく、全部平らげた。





そして、好物ばかりの入ったお弁当を平らげた後



楽しみにしていた100メートル走りが始まった。





足の早い順に組まれているために、




私が走るのは、女子の中でも一番目の組だ。





一番目の組のトップが学年の女子で一番早いものとなる。





秋の運動会のこの1本ですべて決まってしまうのだ。






私の鼓動は高鳴り、ほっぺが赤くほってっていくのを感じた。





スタートラインについた。






静まりかえる運動場。








よーい!








パンッ!!


















結果は…









3位であった…








お弁当のせいだった…


















人生史上、一番大事な晴れ舞台だったのに…







またしても…








食べすぎてしまったのだ!






重くなったからだは言う事を聞いてくれなかった。








気持ちだけが前へ前へと焦っている中、






一人…






二人と…





私の前を走っていく後ろ姿を見た…






どんなにもがいても前へ進めなかったのだ…







そう…






弁当の食い過ぎで




腹が重くて走れなかったのだ!







3位の旗の列に並ばされた。






後から走ってくる同級生の姿をみながら悔しさで



頭がさけそうな思いだった。



いや・・・





実際には・・



頭ではなく…




食べすぎで





腹がさけそうであった!








悔しい思いで終わった小学校の秋であった…




オカンの言葉…





「腹八分目…」






八分目…





八分目…





口癖のように言っていたオカンの言葉…






八分目…









どうして…







オカンは…








弁当を…







八分目にしてくれなかったのか?






こんなオカンの子だから






成長して大人になった今でも






食い過ぎで…






腹を壊すんや!





秋の夜長に思い出した、子供の頃の苦い思い出でした。





何事も八分目…。

マサコのぱんつ。

ある日、職場で1枚の請求書をことづかった。


帰り道の田舎の町の小さな花屋へ寄ってきて

請求書に書き漏れている名前を書いてもらってきてほしいと。


いつもより15分早く帰って、その帰り道に花屋へ寄った。


花屋の前に車を停め店に入った。



店の中は誰もいない。



「すみませ~ん」




大きな声で呼んでみた。




返事はない。




田舎の店はいつもこうだ。




店を開けっぱなしにして店番が誰もいない。




レジを見ると、今しがた客が花を買っていった形跡があった。



古く重たい鉄のレジの窓には、1000の数字が打たれていた。



田舎の花屋。





町の花屋と違って陳列ケースの中の花は仏壇用の質素な花が数本あるだけだ。





ひと通り小さな花屋の店内を見回してもう一度






「すみませ~ん



 こんにちは~!



 すみませ~ん!」











何度呼んでも店主が出てくる気配はない。




店の奥は住まいになってるようだ。




店と住まいの間を仕切っている大きな暖簾を押してみた。





すると





小さい間口の花屋とは対照的に奥に長く伸びる土間が続いていた。






土間の横には階段があった。






土間の奥に向かってもう一度





「すみませーん!



 すみませーん!!!!」




と叫んでみた。






すると階段の上の方からゴトゴトと音がした。





あぁ・・




良かった。





気づいてくれて出てきてくれるんや。






しかし・・・





ガタゴトと音はするものの






一向に降りてくる気配がない。






さらに階段の上の方へ向かって叫んでみた。



「すみませーん!」






ガタゴト…






ゴトゴト…






ガタゴト…






やはり音はすれど、店主がでてくる気配がない。






土間を少し奥へ進んで、階段の下で上に向かって叫んでみた。






ガタ…



ゴトゴトゴト・・・・




降りてくる気配がした。




慌てて店の方へ後ずさりして、暖簾から顔を出して様子を伺った。





ガタタタタ・・・・







ゴゴゴゴ・・・・








そこに現れたのは小さな腰の曲がったおじいちゃんであった。




古い赤い掃除機を手に階段から降りてきた。




しかし背をむけたままだ。






すみません…




声をかけるも…





気づく様子がない。




しばらくそのおじぃちゃんの背中を見ていると





古い掃除機を手に持ったまま振り返った。





そして私と目が合い





ウッ!と小さなうめき声をあげた。




小さな身体が少し宙に浮いたような感じがした。













私が暖簾から顔を出してのぞいているとは知らず





振り返ったら目が合って驚いたのであろう。




目が合ってようやく私の存在に気づいてくれた。









よかった…








おじぃちゃんが…












死ななくて










あまりの驚きように




そのまま死んでしまったらどうしようかと








真剣に思ったのだ。












おじぃちゃんは耳が遠いらしく


「え?え?」と聞き返してきた。






大きな大きな声で何度も伝票に名前を書いてくれるようにお願いした。









小さな店の中は私の叫び声が響いていた。





ようやく伝票に自分の名前を書いて欲しいと伝わったようだ。




小さく震える手でペンを持った。




そして…





書いてほしい場所でなく






全く違う所に名前を書こうとする!





「ここでええやろ~



ここのが広いで~」






書くスペースが広い所へ






名前を書けなんて









言ってへんやろ!








今度は何度も何度も名前を書いてほしいところへ





ペンを促す私。





おじぃちゃんはどうしても広い場所に名前を書きたいらしく





ペンの先で何度も何度も伝票に黒い染みをつける








じじぃ!












やっとの思いで名前を一つ書いてもらい





ようやく家に帰ることができた。





家に帰って着替えていたら引き出しにしまわれた大きなパンツが目にとまった。





オカンのパンツだ。





一般的にはガードルと呼ばれるものだ。






私は太ってから持っていたガードルがすべて身に合わなくなった。





ある程度伸びるガードルがすべて入らなくなったのだ。





先日姉の家に行った時に実家でオカンに大きなガードルを2枚貰った。





オカンも大きなお尻をしている。




まだ新品のガードルを2枚貰って




いつもいつも私と会うだびに太いと罵倒する姉のために




少しでもお尻を小さく見せるためにガードルを履いた。




その時に気付かなかったのだが良くみると…




なんやら腹のあたりに文字が書かれているようだ。






マサコのぱんつ





なんでパンツに
















名前書いてるねん!











もう1枚のパンツにも







マサコとオカンの名前が書かれていた。





しかも洗濯しても落ちぬように






油性マジックで!








必要な伝票に名前を書かぬ、じぃさん。





必要でないパンツに名前を書くオカン…







年をとったら私もこうなるんだろうか…






名前をめぐって色々考える日であった。



ランテーブル。

夜、愛犬たちとリビングで遊んでいたら・・・



なにやら呻き声がする・・・




「う~ん」


呻き声の正体を確かめるべく、声のする方へ向かった。






2010031001.jpg




うめき声の正体は、ケンであった。




私の他に人間はケンしかいないのだから、声の主の正体は想像していたとおりである。






何してんねん!





風呂場で天井についている換気扇のネジをしめている。






何してんねんって!






2010031002.jpg





天井にめいいっぱい手を伸ばしてねじをまわしているので




悠長に返事なぞできる状態ではない。







それでもしつこく・・・








何してるんや!ってきいてるねん!







普通であれば、換気扇の修理をしているのを見てわかるものだが・・・







ケンである。








ケンが換気扇の修理などできるわけがない。








2010031003.jpg






ほら!







案の定、いましがた取り付けたばかりの換気扇が落ちた!






もう・・・







ひとりでできひんのやったら最初から私を呼べばええのに・・・





ブツブツ言いながら手伝った。






ケンの身長で手をめいいっぱい伸ばさないと届かない天井である。





ケンより10センチ以上も小さい私が天井に手が届くわけがない。







風呂桶に乗って手を震わしながら天井の換気扇を抑えた。





「はよ!はよしてー!





めっちゃ手がプルプルするー!」




するとケンも・・・





「俺もさっきからプルプルやねん」






知るか!







2010031004.jpg




換気扇は無事に元にあった場所に収まった。





聞くと・・・






修理ではなく、換気扇に埃がたまり変な音がしていたために解体して




埃を取り除いていたという。






床をみると見事に埃が・・







落ちていた。






もう・・







今度は掃除機を持ってきて、風呂場の床を掃除した。







全てひとりで仕上げてくれたら何も言う事ないんやけど。







ため息をついた視線が脱衣場の壁にとまった。













2010031005.jpg





これもケンの







力作である。






タオル掛けなのだが、一度で取り付ける事ができず




まっさらの壁紙を見事なものにした力作である。







風呂場でバタバタしてリビングへ戻ると愛犬が見当たらない。







2匹ともコタツの中で寝ているのだろう。






コタツへ入ったら中から






ピチンッという音がした。











いやな予感が・・・






中をのぞくと・・







予感的中。



去年生まれた方の愛犬、あんこが


パソコンのLANケーブルのソケット口をかじっていた。



最近ノートパソコンを購入したのでコタツの上でネットを見ていたのだ。






まだまだ目を離したスキに色んなものをかじる好奇心旺盛な時期のあんこが、



風呂場へ行ったスキを見てLANケーブルをかじっていたのだ。






もう・・・





かじられたLANケーブルを見た。





ソケット口はもうLANケーブルの役割をはたせないほど変形していた。





もう・・・




ため息をついていると、今度はキッチンから声がした。




「うわっ!」





ケンの短い悲鳴である。





この声で・・・






また仕事が増えたと思った。







コタツの中には、あんこしかいない。






先住犬のクッキーが何かしたのだろうと思った。





キッチンへ行くと・・・






生ゴミが散乱していた。








今日はいったい・・・





何やねん!






クッキーは生ごみをあさった事などない。




今まで一度もない。





なのに次から次へと・・・







疲れた夜であった。






次の日。






職場の人にLANケーブルの規格は同じで、価格はいくらくらいで、



どこにでも売っているものなのかを聞いた。





職場の人はすぐに、商品カタログで見てくれて


カタログには2メートルが300円と書かれていたものを見せてくれた。





規格も一緒であろうという事と、どこの電気屋でも売っているだろうという。





帰りに早速町の電気屋へ寄った。







田舎なために、職場から車で30分以上走らないと、



全国展開している大きな電化製品店などない。




自宅からだと片道1時間もかかるのだ。





疲れるので、帰り道にある田舎の町の小さな電気屋へ寄った。




店に入ると年配のご夫婦が店番をしていた。




レジの前に座っているおばぁちゃんに





「LANケーブルっておいてはりますか?」と聞いた。




おばぁちゃんは、店の奥にいたおじぃちゃんに



「なぁ!ランテープあるか?」と聞いた。





違うがな!





「いえいえ、LANケーブルです」




というと・・・






ランテーブルやって」





・・・







ランテーブルって・・・







何やねん!







それでも長年連れ添ったご夫婦の間では、相通ずるものがあるらしく





LANケーブルの陳列棚へ案内してもらえた。






おじぃちゃんは、「何メートルがいりますかいな。」といった。





何メートルがあるんですか?と聞くと・・・







10メートル!







・・・










どんなけ長いねん!






「いえいえ、もっと短いのでええんです」と



陳列棚を見ると・・





2メートルと3メートルもあった。






2メートルと3メートルもあるのに





このじじぃ・・・






なんで・・・





10メートルをすすめるねん!







2メートルの値段をみたら・・






800円!







え!300円ちゃうんかい




職場のカタログは300円やったのに。







仕方ないが、それを購入した。




お金を払う時にふと不安がよぎった。






カタログと500円もの値段差が生じているので




もしやこれはLANケーブルではないんではないか?







おばぁちゃんのいう・・・







ランテーブルなる代物ではないのか!








不安だったので、



「それってパソコンにつなげてネットができる線ですよね」と聞いた。






「・・・。」






おじぃちゃんは、無言でそれを袋へ詰めている。





え?





このじじぃ・・袋へ物を入れるので必死で聞こえへんのか?





「あの~・・それってどのパソコンにも大丈夫ですよね~?」ともう一度聞く。






「・・・。」





また無言で今度は1000円をレジにしまってお釣りを出している。






「あの~・・」





「・・・。」







無言で袋と200円を差し出し、もう帰れとばかりのしぐさだ。






え?






「大丈夫ですよ!」





後ろで若い店員の声がした。




電気店の息子が配達から帰ってきたようだ。




どうやらそのおじぃちゃんは、LANケーブルの存在は知っていたが、




LANケーブルの役割を知らなかったようだ。







家に帰って早速LANケーブルを取り付けた。





無事にネットは開いた。




よかった。






しばらくすると、ケンが帰ってきた。






「なぁ!ランテーブル買ってきたで!」





ケン「ランテーブルって何や?」







・・・。(-"-)








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ゆうこ

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相方☆ケン
相棒☆クッキーとあんこ:♀
http://cookiebonbon.a-thera.jp/で『京たんばのわんこだ!ぼん!』では相棒のクッキーとあんこの笑ける日常をほぼ毎日UPしてます

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